僕は二つのことを同時にできない。
テレビを見ながら他人と会話をするなんてもってのほかだ。
妻の詰子が話しかけてくるが、テレビに集中しているせいで、その場しのぎの言葉を並べてるだけの曖昧な返答をしてしまう。
「ちょっとオツトくん、さっきから全然、私の話を聞いてないよ」
「そんなことないよ」
「耳が遠くなってない?」
「なってないよ」
「いや、なってる」
「あのね詰子ちゃん、耳が遠いのは実家の母。だんだん耳が聞こえなくなってる。この前なんて、お湯が沸いてるのに気づかないもん」
「それって、オツトくんも、一緒じゃん」
「ぴょ〜」
あとがき
二つのことを同時にできないのは、男性に多いようです。
テレビを見ていて電話がかかってくると、音量を下げないと会話ができません。
会話をしながら車を運転していると道を間違えます。
などなど、言い出したらキリがないな。
確かに詰子の言うとおり、僕も鍋を火にかけたまま他のことをしていると忘れることがあるけれど、でも、これは耳が遠くなっているということではありません。
母はやかんの「シュー、シュー」という音が聞こえていないのです。
まぁ、どっちにしても悲しい気分になりますね。
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