母、迷子になる

日記

病室へ行くと、母は元気そうにしている。
点滴も外れて、自由に動けるのが嬉しいようだ。
母が言う。

「お茶を買ってほしいんだわ」
「わかった」

食堂の自販機までリハビリがてら歩いていく。
ほんの50mほどの距離だ。
お茶を買ってテーブルに座る。

「母さん、他に何か欲しいものある?」
「今度、靴下を持ってきてほしい」
「わかった。次に来るのは妹だから伝えておくよ」

病室まで戻る。
母が先にゆっくりと歩いていくが、自分の病室とは違う棟に向かっている。
何かあるのだろうかと思い、しばらくついて行くと、ついに端まで来た。

「あれ!? 違うわ」
「うん、違うよ。ここは東病棟。母さんは西病棟」
「ん〜」
「わからん?」
「わからんわ。昼も迷子になったんだわ」
「ん〜、いかんね〜」

その後、母を病室に連れていき、僕も病院を出た。
忘れる前に妹に電話をして、靴下を持って行くように依頼する。
帰宅後、妻の詰子に報告する。

「迷子になってたよ」
「マジで?」
「脳梗塞の後遺症なのか、痴呆なのか、よくわからない」
「ん~、たぶん、ただの、方向音痴じゃないかな」
「まぁ、そうだといいけど」

東病棟も西病棟も、どちらも同じ作りなので、どちらの病棟にいても景色は同じに見える。
詰子の言うとおり、自分がどちらの病棟にいるのかが分かりにくいかもしれない。

「それから、寒いから靴下を持ってきてほしいって言ってた」
「どうしてコンビニで買ってあげなかったの?」
「そうか、その手があったか」
「はぁ〜」
「あっ、そういえば、カバンの中にも俺の靴下が一足入ってるわ」
「はぁ〜」

あとがき

面会できるのは一日に二人まで、各15分間のみ。
なので少し会話をしていると、すぐに面会時間が終わります。

母も僕もボケボケですね。
妹は旦那さんの親を介護しているので、入院手続きやら必要な荷物など、とても慣れています。
母は仕方がないとしても、役に立ってないのは僕だけ。
ダメ人間と言うより役立たず。
ワンパターンしかできないのです。
たぶん男の人は僕みたいな人が多いはずです。
困ったものですね。

それにしても、病院内で迷子になるとは。
しばらくは注意が必要です。

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