リビングの扉を開けた瞬間、ふわりと香ばしい匂いが鼻をくすぐった。
炒め物の匂いだ。
油が跳ね、肉が焼け、タレが焦げるあの幸福な香りだ。
妻の詰子に聞く。
「詰子ちゃん、何食べたの?」
「ハハハハ。あのさ~、私が何を食べたか聞くのやめてくれる?」
「なんで?」
問い返すと、詰子はまた笑う。
その笑い方は、何かを隠しているとき特有のものだ。
視線を台所に向けると、まな板の端にキムチのパックが置かれている。
赤い汁が少しこぼれ、まるで「ここに答えがあるよ」と主張しているようだった。
勘が働く。
「豚キムチ?」
詰子が考えながら答える。
「う~ん、違う。牛キムチ」
「ぎゅ~きむち?」
「ハハハハ。そう、ぎゅ~ 」
牛とは意外だった。
豚キムチは定番だが、牛キムチは聞いたことがない。
「美味かった?」
「うん、美味い。豚より格段に美味いよ」
「なるほど。牛は豚を軽く超えてくるね」
「超えてくるんだよな~、ハハハハ」
詰子は満足げに笑って、超ご機嫌である。
あとがき
詰子も僕の常識を軽く超えてきます。
牛キムチとは思いもよりませんでした。
やっぱり牛は美味いですね。
ステーキ、しゃぶしゃぶ、焼肉…どれも幸福感を連れてきます。
もちろん、豚も鶏も美味いですよ。
トンカツ、豚丼、焼き鳥、鶏の唐揚げ…どれも魅力的です。
でも、やっぱり牛は豚や鶏にない何かがありますね。
詰子曰く、牛を食べると脳から幸せホルモンが分泌されるのが分かるらしいです。
まぁ、それで幸福感が倍増されるなら、それはそれで素晴らしいことだと思います。

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