僕と妻の詰子は事業を営んでいる。
詰子が事務所に行くと言う。
「詰子ちゃん、事務所の机の上に紙袋と書類があるから、それを持ってきて」
「わかった」
詰子は身支度のために寝室に行き、服を着替えてリビングに戻ってきた。
「オツトくん、書類と何だったっけ?」
「紙袋」
「あっ、そうだった。すぐ忘れちゃう」
詰子は忘れないように何度も繰り返し言いながら玄関へ向かう。
「書類と紙袋、書類と紙袋、書類と紙袋……」
僕も送り出すために詰子の後ろについて玄関に行く。
「詰子ちゃん、行ってらっしゃい」
「書類と紙袋、書類と紙袋、書類と紙袋……」
詰子はそのまま呪文を唱えながら出て行った。
あとがき
老化あるあるです。
横槍が入ると自分のすべきことが分からなくなる状態です。
いつもは詰子より僕のほうが物忘れが酷く、呆れられていました。
しかし、詰子もいよいよ僕に追いついてきたようです。
妻子ちゃん、ようこそ、こちらの世界へ。
下手をするとあと40年。
こんな感じで、いや、もっとボケボケが加速した状態で、老後を送らなければなりません。
食事、運動、生きがいに気をつけることが対策と考えていますが、そんなに上手くいくかな。
詰子ちゃん、お互い助け合いながらやっていこうね。
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